とあるヒアルロン酸注入法の功罪

比較的新しいヒアルロン酸の注入法に、「少量注入によるリフトアップ法」というものがあります。

 

本来、ヒアルロン酸注入はシワや凹みのボリュームを補う材料として使われるのですが、「少量注入によるリフトアップ法」はシワや凹みではない部分にあえてヒアルロン酸を注入し、リフトアップ効果によって若返るという方法です。

 

ほうれい線に直接ヒアルロン酸を注射しなくても、リフトアップ効果によって僅かですがほうれい線が浅くなることも期待できます。

 

 

 

この注入法はそれまでのヒアルロン酸注入とは一線を画したもので、手術や糸によるリフトを行わなくても即効的なリフトアップを得られるという優れた方法です。

 

この「少量注入によるリフトアップ法」を発案したドクターを招いて、この方法を大々的に提唱し始めたのはA社ですが、その後B社も顔の靭帯を考慮した類似の「少量注入によるリフトアップ法」を推奨しています。

 

A社の「少量注入によるリフトアップ法」、ここではこれを「Mテクニック」と呼ぶことにしますが、Mテクニックはシワや凹みに応じて注入するのではなく、あらかじめ決められたポイントに注射するだけなので、ヒアルロン酸注入経験のない初心者でも簡単に真似することができます。

 

個人的には、顔の靭帯を意識して注入するB社の注入法の方がより説得力を感じるのですが、靭帯を意識しないで注入するA社のMテクニックの方が美容初心者の先生方には歓迎されやすいと思われます。

 

A社のMテクニック(仮称)
頬のタルミ改善には赤のポイントに注入します
緑は目周辺のタルミ改善

 

 

B社のTメソッド(仮称)
頬のタルミ改善には青のポイントに注入します。
顔の靭帯を意識して靭帯の下に注入するようにします。

 

 

A社もB社も大した違いはないように感じるかもしれませんが、微妙にコンセプトは違います。

 

目周りに注射して目のタルミを改善することは頬のタルミに対してもよい影響を与えますし、ここでは印を付けませんでしたが、アゴに対しても治療を行うことが一般的です。

 

頬外側の注入点(赤の2点)はリスクがほとんどない注入点ですので、注入初心者でも安心して注入できますが、頬の内側部に注入する場合は神経血管に注意が必要です。

 

 

 

Mテクニック自体は大変有益な治療法なのですが、Mテクニックが広まりだしてから、「ヒアルロン酸注射を受けたが治療効果が全然なかった」と訴える患者様が増えたように感じます。

 

今日のブログと同じような内容のことはこれまでにもアメブロに書いているのですが、同じことを何回も書くということは、それだけ同じ訴えの患者様が多いということです

 

ヒアルロン酸注射で効果がなかったと訴える患者様に比較的共通していることは、
① 治療を受けたのは美容専門クリニックではなくて美容もやっている一般皮膚科であること) (複数)、
② 改善を希望した部位とは全く違う場所にあちこち注射を打たれたと主張されること、
③ ヒアルロン酸注入を初めて受けた人が多いこと、
などです。

 

改善を希望する部位とは違うところに注射を受けたということは、まさにMテクニックに準じた治療が行われたと推測されます。

 

 

 

Mテクニックは大変有益な治療法だとは思いますし、私もMテクニックをもっと利用したいのですが、実際に私がMテクニックを行う頻度は非常に低いのが実情です。

 

何故なら、Mテクニックで変化を出しやすい患者様は限られますし、患者様自身がMテクニックで得られる変化を必ずしも望んでいない場合も多いからです。

 

Mテクニックで効果を出しやすい人は、皮下組織が厚くなくて下垂程度もあまり進行していない患者様です。

 

 

 

Mテクニックで得られる変化は全体的なごく自然な若返りで、その微妙な若返り変化に納得していただける人には大変喜ばれますが、気になっていた局所のはっきりとした変化を望んでいる人では失望される可能性があります。

 

例えば下垂が進行していて、ほうれい線を浅くしたいという患者様にMテクニックだけを行っても、患者様が結果に納得される可能性は低いと言わざるを得ません。

 

 

 

完全予約制の当院では、ヒアルロン酸注入を希望される患者様に対しては30分程度のカウンセリングを最初に行いますので、注入によってどれくらいの効果が得られるのか、仮にMテクニックを行う場合はどのような変化が期待できるのかをあらかじめ正直に伝えることができます。

 

しかし、一般皮膚科の先生方は一般診療の合間に美容治療を行っていらっしゃるので、十分な説明なしにヒアルロン酸注入が行われていることも多いと思います。

 

患者様の希望する変化を尊重せずにMテクニックを行ったのでは、仮に変化が生まれていたとしても医者のひとりよがりとなり、「全然効果がなかった」と感じる患者様が増えるのは当然と言えば当然です。

 

 

 

何故かA社はMテクニックを用いたヒアルロン酸注入ばかりを推奨していて、フィラーとしての基本的な注入法をあまり啓蒙しません。

 

私個人の印象としては、Mテクニックを知らない患者様の方からあえてヒアルロン酸注入を指定してきた場合にはMテクニックが適応となるケースは少なく、ヒアルロン酸に特にこだわりがなく医者任せで即効的な若返りを希望する人にMテクニックの適応があるように思います。

 

 

 

余談ですが、
かつてMテクニックが新しいヒアルロン酸注入法として紹介された頃、一度だけA社のヒアルロン酸セミナーに参加したことがあります。

 

参加医師が多い大きな規模のセミナーだったのですが、その時驚いたのが、女性医師の割合が非常に多いことと、派手な服装をした女性医師が多かったことです。

 

最近、形成外科学会や美容外科学会の女性医師の割合も増えてきてはいますが、その時のセミナーほどではありません。

 

また学会ではありませんが、セミナーも一応は勉強の場ですから普通はそんなに派手な服装で来る女性医師はいないのですが、その時は真紅のドレスを着た人もいましたし、パーティーのように着飾った人、超高級ブランドバックを携えた人などを多く見かけました。

 

私も美容外科関係の業者のセミナーには数多く参加していますが、あの時のA社のセミナーほど私とは別世界に住む先生を多く見かけたセミナーはありません。

 

最近のA社のセミナーは、会場を使ったものではなくインターネットを使用した形態に代わってしまったため、あの時と同じ驚きを再度体験できることはもうないでしょう。