冷凍治療

皮膚科の治療法の1つに「冷凍治療」があります。

 

病変部を凍らせて細胞にダメージを与えて効果を得るという方法で、非常に古典的な方法でありながら、現在でも有用な治療手段になっています。

 

特にウイルス性の子供のイボ治療では第一選択の治療法で、ほとんどの一般皮膚科には液体窒素が常備されています。

 

ウイルス性のイボは他の部位に拡散する可能性があるので、治療中に細胞が飛び散らない液体窒素療法は子供のイボには最適な治療といえます。

 

液体窒素の他にドライアイスも冷凍凝固に用いることができ、Qスイッチレーザーが登場する前は、太田母斑の治療にはもっぱらドライアイス圧抵療法が行われていた時期もありました。

 

冷凍治療は、レーザーなどの高価な医療機器を買うことなく、どこの皮膚科でも導入できる大変便利は治療手段となっています。

 

冷凍治療は子供のイボだけでなく、老人性のイボやシミの治療にも使用することができますが、美容を主とするクリニックで冷凍治療を行っているクリニックはあまりありません。

 

老人性のイボやシミに対する冷凍治療の欠点は、病変の大きさや厚さに応じて液体窒素の塗布量と塗布時間をうまく調節しないと効果が十分に出せない難しさと、治療後にひどい色素沈着をきたすことが多いことです。

 

先日、顔に多発する老人性のイボを一般皮膚科に通い液体窒素で治療している患者さんがいらっしゃいましたが、1回の治療で少ししか除去してくれないので、顔全体を治療するためにはいったい何回通わなければいけないのか全く先が見えないと訴えていらっしゃいました。

 

またその皮膚科では、「レーザーは傷跡が残るのでやらない方が良い」とも言われたそうです。

 

「レーザー」は炭酸ガスレーザーのことを指したのだと思いますが、炭酸ガスレーザーの方が冷凍治療より傷跡が残りやすいかというとそうではありません。

 

冷凍治療による低温皮膚損傷と熱による皮膚損傷を比較した場合、低温皮膚損傷の方が傷跡になりにくいという意見は確かにありますが、液体窒素よりも炭酸ガスレーザーの方が治療のコントロールが行いやすく、むしろ炭酸ガスレーザーの方が少ないダメージで確実に治療することが可能です。

 

液体窒素で治療する場合、その場でイボが取れるわけではなく、1週間程度経過してから患部が脱落します。

 

冷凍の程度が弱ければ病変は取り切れずに不完全な治療で終わり、冷凍しすぎれば炭酸ガスレーザーよりもむしろ広範囲で程度の強い色素沈着を起こす可能性があります。

 

特に非常に小さいイボを綿棒で正確に冷凍することは難しく、治療できたとしても元のイボの大きさよりもはるかに大きな色素沈着を起こしてしまう可能性が高いのです。

 

その点、炭酸ガスレーザーの方がピンポイントで病変部を蒸散することができるので、イボよりも大きく治療痕を残すことがありません。

 

また、炭酸ガスレーザーならその場で病変が消失したことを確認できるので、治療効果も確かです。

 

以上の理由から、老人性のイボやシミに対して、美容医療を主とするクリニックで冷凍治療を行うことはほとんどありません。

 

レーザーよりも冷凍治療の方がいい結果を残すことができるのであれば、わざわざ高価なレーザーを買う意味がありません。

 

太田母斑に対しても同様で、Qスイッチレーザーという傷跡を残さずに確実に治療できるレーザーが登場してからは、太田母斑をあえて冷凍治療で治療するメリットは全くなくなりました。

 

老人性のイボの治療において、液体窒素と比較した時の炭酸ガスレーザーの欠点は麻酔の問題です。

 

液体窒素ではどんなイボに対してもほぼ無麻酔で治療できますが、大きなイボを炭酸ガスレーザーで治療する場合は何らかの麻酔処置が必要です。

 

広範囲の多数のイボを一気に治療する場合は麻酔クリームを治療前に塗布し、大きなイボに対しては局所麻酔を追加することもあります。